大蔵永常は江戸時代の三大農学者の一人で、全国各地をめぐって諸国の農政を研究し、未刊のものも含め、生涯で約80冊もの農書を執筆した。江戸後期は商品・貨幣経済の発展が著しかったことに加えて、凶作が頻発したため、困窮していた農民の生活を救済するべく、米麦等の穀類の増産や副業的な特用作物の栽培と製造・加工等の多角経営を行うことを主張した。
『除蝗録』大蔵永常著 1826(文政9)年
『除蝗録後編』大蔵永常編録 1846(弘化3)年
耕地面積が大きく拡大した江戸時代には、それまでの祈祷等の農耕儀礼によるものだけでなく、植物や鉱物等を調合した農薬のルーツが登場したり、鯨油を田に注入する注油駆除法が筑前国で発見されるなど、実用的な害虫防除法が現れた。
注油駆除法や農薬による害虫防除技術を初めて系統的にまとめた、『除蝗録』と『除蝗録後編』が農業技術の普及に果たした役割は大きい。 鯨油による注油駆除法を図説した『除蝗録』は版を重ね、全国に注油駆除法を広めることとなった。また、『除蝗録後編』では、鯨油が入手できない場合の代用品として、芥子油や菜種油、桐油、石灰等による駆除法を紹介している。
『廣益國産考』大藏永常著 1859(安政6)年
大蔵永常の農学の集大成といえる著作。国産(特産物)の生産を奨励し、農家経済の安定を促すのみならず、国益を増すことを意図して書かれている。取り上げられている国産は農作物に限らず、人形、蝋、醤油、海苔、養蜂など多岐にわたる。