論文へのアクセス数が驚くほど増えた:Springer Nature パイロットプロジェクト経験者インタビュー(人文学研究科・新川拓哉先生)

本インタビューは、Springer Nature社とのパイロットプロジェクト契約を利用して論文をオープンアクセス(OA)にされた先生方に本プロジェクトを利用した経緯や利用しての感想をお伺いしたものです。

新川先生(人文学研究科メンバー / Kernel )は、2023年度に本プロジェクトを利用して下記の論文をOA出版されています。
・Naïve realism, imagination and hallucination
 https://doi.org/10.1007/s11097-023-09915-0


インタビュー実施日:2023年12月25日(月)

新川先生近影

実際にSpringerのプロジェクトを利用してOA出版された先生に色々お聞きしたいということで、今回インタビューの場を設けさせていただきました。
早速ですが、本プロジェクトについて、図書館から「OA出版されますか?」とメールでお伺いする前にこういう仕組みがあることをご存知でしたか?
いや、知りませんでした。実はそのころ半年間の育児休暇を取っていたのですが、論文出版のための手続き等はやらなきゃいけないので、必要最低限の作業だけ息子を育てながらやってたんです。なので、一瞬で6ヶ月が過ぎていってほぼ何も記憶に残っていないみたいな感じで……。ただ、出版の時にOA化するかどうかのチョイスをSpringerの方から提示されて、その際に包括契約がありますみたいなことがSpringerのシステム上で表示されたはずで、それを見て「そういうのあるんだ」と知って、OAにしようかと思ったような記憶があります。それとほとんど同じタイミングで、図書館の方から詳しいメールをいただいて、という流れだったような気がします。
では最初から今回の論文をOAにしようと思って投稿されたということではなく、出版プロセスの中でOA出版できるんだったらしてみようかな、というところからOA出版を選択されたということなんですね。
そうですね。
OA出版する時の費用について、本来であれば40万円くらいAPCが必要なところを、本プロジェクトでは先生方に10万円ご負担いただいてOA出版していただいているんですが、この金額について、これぐらいだったら負担できそうかな、ということで選んでいただいたんでしょうか?価格に関して先生の感覚としてどんな感じかお聞かせいただけますか?
そうですね。論文ひとつOAにするのに40万はさすがに、払えないわけではないんですけれども……。10万円であればOAにするメリットもあるし、そうすべきかなとも思います。Springerだと他大学とかでも契約しているところが多く、大学関係者が読みにくいということはあまりないので、40万円だとそこまでしてOAにしなくてもいいかなと思っていました。
今おっしゃったOA出版するメリットについて、どういう点がメリットだと感じておられますか?
やっぱり大学関係者以外の人も含めて、とにかく多くの人に読んでもらえるっていうことですね。それに尽きるかと思います。
今回の論文以外でもOA出版された経験はありますか?
あります。例えばですけど、Oxford University Pressから出ている”Neuroscience of Consciousness“っていう、認知科学とか神経科学系の雑誌なのですが、そこから論文を出したときはOAにすることが出版の条件だったので、その際にOAにしました。”Frontiers in Psychology“から出した時もそうですね。
なので、OAが出版の条件のところはOAで出してましたけども、それ以外のところでOAにしたのは2度目ですね。
できるものであれば、論文はOAにする方がいい、と先生はお考えですか?
そうですね。OAにしない積極的な理由はそんなにないんじゃないかと思います。僕自身の研究は特許とかが絡むものでもないですし、一度技術をオープンにしてしまうとディスアドバンテージが生じてしまうタイプのものでもなく、新技術を社会実装等する際の倫理的なフレームワークを提示するみたいなものだったりするので、むしろ社会に広く知られた方がよいと思っています。研究成果に特有の事情でOAではない方がいい、ということはほとんどないと思います。
ありがとうございます。今回、本プロジェクトを使ってOA出版していただいた時の図書館とのやりとりやその後のSpringerとのやりとりを含めて、手続きが煩雑だなとか、こういうところ気になったなっていうような点って何かありますか?
ほぼ記憶がないので……。でも記憶がないということは、たぶんそんな面倒くさくなかったんだと思うんですね。そちらからご連絡いただいて、予算をぽんとお伝えして、後は何か問い合わせが来るのかなと思っていると、そのままいつのまにかOAで出版されていたので、非常にノンストレスだったんではないかと。
先ほど、OAはできればした方がいいとおっしゃられていましたが、本学のリポジトリにも論文を登録してくださってますね。
そうですね、OAになること自体は、ありがたいなと思っています。
せっかくなので一例なんですけれども、今回の”Phenomenology and the Cognitive Sciences“と同じSpringerの”Philosophia“っていう雑誌から2020年ぐらいに同テーマの論文(”Naïve Realism and Phenomenal Intentionality“)を出してるんですね。そっちはOAにしてないんですけれども、出版から3年半から4年ぐらい経って 400アクセス ぐらいなんです。それに対して今回のOAで出した方はもう 1300アクセス を超えているので、それぐらいやっぱり差がある。哲学分野のちょっとニッチな論文なので、あんまり広く読まれはしないだろうなと思っていたので 400アクセス でも別に驚かないんですけれども、1300回も見られている方に逆に驚いて「こんなに見られるんだ!」って思った記憶があります。
新川先生は本年度5月に1本論文をOAで出していただいていますが、本プロジェクトは来年以降も続いていきますし、他の出版社に広げていくっていうことも検討しているんですけれど、また使っていただけそうですか?
いい話ですね。もちろんです。この取り組みはいいなあと思っていて。APCが1/4ぐらいの額になるっていうのもそうですし、広く読まれるっていうのもそうですし。
もう1つ思ったのは、著名な著者だったり本当にトピックがぴったりだったりすると、たとえアクセス権がないジャーナルから論文が出ていても、何とかして論文を読もうとか、ダウンロードしようとかってなったりすると思うんです。けれども、そうじゃない場合、例えばなんとなくそのジャーナルの新しい号を色々見ていて「あ、こんな論文あるんだ」って思った時に、OAになってるとすぐそこで読めて、パッと確認できて「意外と面白そう」ってなったりすることもあるので、とにかくアクセシビリティが上がるっていうのはありがたいなあと思います。なので、他の雑誌にも拡張するということであれば、それは大歓迎です。
もっとたくさんの先生方に使っていただけるにはどうしたらいいのかなっていうところを図書館でも考えているんですが、何かご意見いただけますか?
逆にOAにしない理由があってのことなんですか?何で皆さんしないんでしょう?
「Springerは国内だと読める大学が多いからわざわざお金を払ってまでOAしなくてもいいんじゃないかなと思ってるんです」っておっしゃる先生はいらっしゃいましたね。
それは確かに。その気持ちは分かります。
Springerだと読めないっていう大学はあんまりなくて。もちろんSpringerの中でももしかしたら読めないジャーナルもあるのかもしれないですけど。例えば、私の論文でも、ちょっと小さい出版社から出してて、あんまり外に著者版をアップロードしてないものだと、海外とかからも論文を送ってくれないかってメールが来たりするんです。なのでOAにする動機としては、僕自身は少なくとも、小さい出版社であんまり色んな所で読めなそうなものの方が大きいです。そういうところからOAで出せるとすごくモチベーションになるなって気がします。
ただSpringerでも先ほどおっしゃってたようにOAにした結果、かなりアクセス数が伸びたんですよね?やはり閲覧数が多いと先生としても嬉しいものですか?
そうですね。伸びました。なので、こんなに違うんだって思ってました。
他に同じくSpringerの”Neuroethics“って雑誌からOAで出版した論文(”Human Brain Organoids and Consciousness“)があって、こっちは共同研究者の予算を使ってOAにした論文なんですが、こっちはテーマが結構キャッチ―だから伸びてるのかもしれないですけど、出版から2年ちょっとぐらいでもう1万アクセスぐらい行っているので、やっぱりOAにすることの意味はあるな、と思ってはいます。何でこんなに違いがあるのか逆に驚くぐらいなんですけど、ともあれ意味はあるなと思っています。
アクセス数についても、せっかく書いたものなので、広く読まれて嬉しくないことはないです。でも、なんかちょっと考えてみると複雑な気持ちですね。嬉しくはあるんですけど、何て言うんだろうな……。「え、何で?」とか「そんなに多くの人がこれに関心持ってたんだ?」とかみたいな、ビックリ!みたいなものはありますね。誰が読んでるのかも分かんないですけどね。
他の先生方に本プロジェクトを活用していただくお声がけをする際に「こうしたらいいんじゃない?」みたいなアイデアって何かありますか?
自分の論文を読んでほしいと思ってるんだったら、やっぱりOAにすることでどれくらいアクセス数が増えたか、っていうのが分かればいいんじゃないですかね。そういうデータがあったら説得力があるような気がします。
例えば同じ雑誌から出てるテーマの似た2つの論文を比べて、片方OAで片方OAじゃなくて、でアクセス回数がこれだけ違う、とかっていうデータが出たら普通に「あ、そうなんだ」って思うと思いますけどね。正攻法ですが。
たしかに漠然と「増えます」と言うより数字で示した方が説得力が上がりますよね。ありがとうございました。

          新川先生インタビュー風景
          

[インタビュアー:荒川・有馬・多田・和田]