新聞記事文庫


「新聞記事文庫」は、神戸大学経済経営研究所によって作成された明治末から昭和45年までの新聞切抜資料で、「新聞切抜文庫」とも呼ばれています。六十年以上にわたって営々と積み上げられた切抜帳は約3200冊、記事数にすれば約50万件という膨大な量になっています。
デジタル版新聞記事文庫は、1999 年にサービスを開始した附属図書館電子図書館システムの主要なコレクションとして 2000年6月30日に公開されました。新聞記事文庫の全記事のうち特に希少な昭和20(1945)年までの記事38万件(推定)を対象に、順次デジタル化を行い、著作権処理が完了したものから本文を公開しています。

この項は、以下の文献に拠って記述しています。
山本泰督「神戸大学経済経営研究所 新聞切抜文庫(上・下)」(『同朋』96-97号, 1986.6-7)

創始と歴史

神戸大学の前身のひとつである「神戸高等商業学校」の創設は明治35(1902)年ですが、10年後の明治45(1912)年に坂西由蔵教授の唱導により、経済調査機関である「調査部」が学内に設けられました。その事業として、諸会社営業報告書や統計資料の収集などとともに、商業経済を中心とした新聞記事の切り抜きがあげられ、坂西教授を主幹とする事業がスタートしました。今回公開したデジタル版の編年体一覧をみると、収録記事は明治44(1911)年後半からはじまり、翌45年(大正元年)のなかほどから急増しているようです。
その後、大正8(1919)年に「商業研究所」が設置されると、新聞切抜を含む調査事業は研究所に移管されました。これにより切抜事業はますます拡充されて、当初26紙だった採録誌も一時は50紙を超えるまでになったようです。作業の中で、切抜記事の選択と分類という最も重要な部分は一貫して教官によってなされていました。

昭和に入って日中戦争・第二次大戦の時期にも困難を乗り越えて事業は維持されました。
戦後になっても、新生神戸大学に設けられた経済経営研究所に事業は継承され、昭和27年から規模をやや縮小した形で再開されました。戦後も約20年の事業継続ののち、主要紙の縮刷版発行などの事情を勘案して昭和45年をもって終幕を迎えることになりました。

特色と意義

「新聞記事文庫」の特色としては、「継続性と網羅性」「専門家による選択・分類」「採録対象紙の多さ」があげられます。

継続性と網羅性

「新聞記事文庫」は戦前の約35年間、さらに戦後の約25年間営々として蓄積されてきました。また、その収録範囲も経営・経済を主体としながら、社会・政治外交・法制・教育などにいたるまで非常に広範にわたっています。とりわけ戦前期においては、これだけ大規模な切抜事業を行っていたのは神戸高等商業学校・神戸商業大学と満鉄調査部しか見当たらないといわれています。

専門家による選択・分類

上述のように、採録する記事の選択と分類が専門研究者の視点で行なわれていたことも大きな特色です。
分類表では、28の大項目の下がさらに計約200の項目に分けられており、特定分野の記事をまとめて閲覧することが可能になっています。

採録対象紙の多さ

新聞別一覧でもわかるように、採録対象紙は非常に広範です。大阪の主要紙(「大阪朝日」「大阪毎日」「大阪時事」)と経済紙である「中外商業新報」が最も多いグループに属しますが、東京・大阪のその他の新聞、地元神戸の「神戸」「神戸又新」両紙、さらには「新愛知」「福岡日日」などの主要地方紙や、「台湾日日」「満州日日」「京城日報」等の旧植民地・外地紙などが幅広く採録されています。また地方版の記事も少なからず採録されています。
また、同一事件について代表的な記事を一つ選ぶのではなく、複数の記事を採録していることも重要だといわれています。

新聞関係資料に占める位置

戦後は多くの新聞社が縮刷版を発行しており、さらに近年はデータベース化により記事の全文検索なども簡単にできるようになってきました。「日経テレコン」のように複数紙を一括検索できるものもあります。
しかし、戦前期の新聞記事となると簡単ではありません。それでも紙面そのものについては、諸機関の所蔵原紙をもとにした復刻版やマイクロ版(最近では電子版も)が発行されてかなり便利になってきましたが、特定分野の記事を調査するとなると通覧作業に頼らざるをえません。

戦前の新聞記事を広範囲に集成した資料には、次のようなものがあります。

  • 「明治ニュース事典」「大正ニュース事典」「昭和ニュース事典」(毎日コミュニケーションズ)
  • 「新聞集成明治編年史」「新聞集成大正編年史」「新聞集成昭和編年史」(「明治」は財政経済学会、「大正」「昭和」は明治大正昭和新聞研究会)
  • 「新聞集録大正史」(大正出版)

これらは収録対象紙もかなり多く、それぞれに有用です。しかし冊子体発行の制約もあって、どちらかといえば時代相を伝えるような代表的な記事を収集したものであり、特定分野の記事を網羅的に調べるという用途には十分ではありません。
以上のことから、満鉄調査部の資料が失われてしまった現在では、「新聞記事文庫」は代替物のない貴重な集成であると言われています。

「新聞記事文庫」の現在

「新聞記事文庫」は現在、神戸大学経済経営研究所図書室によって管理されています。
切抜記事は専用台紙に貼り付けられていますが、その台紙が一定程度たまるとまとめて目次がつけられて製本されています。製本された「切抜帳」は最初に述べたように3000冊以上にのぼり、研究所の書庫一室を占めています。
台紙に貼られているとはいうものの、新聞紙自体は酸性紙であり、劣化を避けるのは困難です。このため昭和40年代に全切抜帳のマイクロフィルム化が行なわれ、現在は原本とともに約650巻のマイクロフィルムが保管されています。

類例のない資料であるため、全国(時には海外)の広い範囲から利用がありますが、保存のため基本的にはマイクロフィルムを利用に供しています。

「新聞記事資料集成」

昭和40年代、神戸大学経済経営研究所では新聞記事文庫の復刻刊行事業に着手しました。戦前分の切抜帳約2500冊を分類別に全350巻の写影版「新聞記事資料集成」として刊行しようという一大事業で、昭和48年に大原新生社よりまず「企業・経営編」が刊行されました。
しかし様々の事情から刊行事業は予定通り進まず、「企業・経営編」「貿易編」「労働編」「社会編」を順次出版しましたが、昭和63年の通巻54を最後に中断を余儀なくされました。

関連情報:エル・ライブラリー「大阪毎日新聞記事索引データベース」

『大阪毎日新聞』記事索引データベースが、「大阪産業労働資料館 エル・ライブラリー」Webサイトより公開されています(2013年5月1日公開)。こちらは1887年~1945年の『大阪日報』『大阪毎日新聞』に掲載された、大阪の社会・労働関係の記事索引です。データは上記ページからダウンロードしてご利用ください。エル・ライブラリーへのお問い合わせ・詳細情報は「大阪産業労働資料館 エル・ライブラリー」のページをご参照ください。