第1回 書評部門 応募作品リスト


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エントリーNo.1

身近なテーマ、児童公園で学問しよう!

P.N 山菜さん
こどものあそび環境(仙田満)
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 数年前、講義で児童公園を設計することになった。指定された条件は土地の面積と入口のみ。途方にくれた私が図書館で闇雲に借りた資料が本書である。正直に告白すれば、面倒な課題を早く済ませるために、本書の緩い雰囲気に惹かれた。私はすぐに認識を改めることになる。まず書き出しから「あそび環境」の定義で始まり、その後も一事が万事、議論は慎重に進められる。テーマが馴染み深い「あそび」でなければ当時の私にはとても読み進められなかっただろう。
 本書は私が人生で始めて触れた専門的な学術書である。こどもの「あそび環境」という捉えがたい対象に対して、長期間の調査に基づく定性的な分類を行い、児童公園全般に対する提言を導いている。身近な対象への豊かな洞察に触れることで、読了後には自分なりの賛成反対が浮かぶだろう。理解して批判する、学問の導入として本書は有用である。特に卒業研究で曖昧な対象を扱いたい学生におすすめしたい。

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エントリーNo.2

世界を動かすアクチュエータ

P.N ちだあさん
アクチュエータ工学入門(鈴森康一)
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 アクチュエータとは,端的には「動き」や「力」を生み出す部品である.モータもその一種である.電車,自動車,エアコン,冷蔵庫,プリンタ,掃除機など,ごくありふれた機械の中で,アクチュエータは働いている.
 生活する中でアクチュエータを意識する人は少ないだろう.だが現在の日本では,発電されたエネルギーの実に60%がモータに費やされている.アクチュエータはまさに世界を動かす縁の下の力持ちなのである.
 本書は,原始的なモータの原理から,最先端の医療用・ロボット用アクチュエータまで,幅広く取り扱っている.アクチュエータの世界へ入門するのに適した一冊だ.

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エントリーNo.3

食事の際の話のネタになる…?かも

P.N まつぼっくりさん
実況 (ライブ)・料理生物学(小倉明彦)
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 夏休み明け、後期からはしっかり勉強しようと意気込み、専門科目の参考書を求めて図書館の生物学の棚の前をうろうろ…。意気込んで来てはみたものの、ゴシック体や明朝体で書かれたお堅い題名ばかりがずらりと並んでいて初学者には取っつきにくそうな本ばかり。本棚の表面を視線が上滑りするだけで一冊も手に取れないでいると、ポップなフォントで「料理生物学」という耳慣れない言葉が書かれているこの本を発見。気になって手に取ってみると、どうやら大阪大学で実際に行われていた講義をそのまま本にしたものらしい。講義は文系学部の人も含めて行われていたため、身近な料理についての生物学的な話題が生物学を専攻していない人にも分かるように書いてある。これなら読めるかなと、結局その日は本来の目的だった専門科目の参考書には触れることもなくこの本だけ借りて帰ってしまった。思いがけない本に出会うのも図書館を利用する醍醐味だから、とそれっぽいことを書いて言い訳にかえておく。

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エントリーNo.4

変わろうと思うけれど

P.N aiさん
なぜ人と組織は変われないのか(ロバート・キーガン リサ・ラスコウ・レイヒー)
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 「今年こそ」と思ってはじめたダイエット。
「後期こそ」と気持ちを入れ替えて登録した授業。
「今日こそ」…
 ひとつは心当たりがあるのではないでしょうか。本書は、そんな方にオススメします。
 なぜ変われないのか、著者はそれを免疫という言葉で表現します(ちなみに原題は、Immunity to changeです)。変わりたいという希望とは裏腹に、心の奥底では、変化を拒んでいる自分がいるのかもしれません。
 経営学・発達心理学・教育心理学などのエビデンスに基づいて書かれており、一見すると難しそうな本書ですが、実践・具体例が多く読み進めやすいと思います。変わろうとは思っていても、なぜか変われない。なぜ変われないのか。本書は、そんなギモンにきっとこたえてくれます。
 なお、本書は2015年1月から延滞中で借りることができません(原著”Immunity to changeは2012年3月から)。
 変わるために、まず読むことからはじめてみませんか?

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エントリーNo.5

忘れてしまったあの切なさ、苦しさを再び

P.N くろおにさん
オーダーメイド殺人クラブ(辻村深月)
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 これは、どうしようもなく面倒くさい恋の物語である。
 「自分は他人とは違う、つまらない大人になんかならない」
 中学2年生の少女・小林アンは、同じクラスの冴えない『昆虫系』の少年・徳川勝利に、自らの殺人を依頼する。
 そして、殺す少年と殺される少女は、特別であることを求めて、殺人を計画する。
 この本は、大人になるにつれて忘れてしまった、あの頃の不安や期待、心を締め付ける苦しさや、切なさを思い出させてくれる。 忙しない日常の中で、他人と同じであることに疲れた人にこそ読んで頂きたい一冊である。

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エントリーNo.6

ある日突然『電子の歌姫』が誕生して、未曾有の現象を巻き起こしたわけではない

P.N たまちゃんさん
初音ミクはなぜ世界を変えたのか?(柴那典)
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 初音ミクの歌声を初めて聴く時、多くの人は「どうして皆こんなものが好きなんだろう?」と感じるのではないか。発展途上技術であるボーカロイドの歌声は人間の肉声の迫力には到底及ばないのだ。それにも関わらず、彼女は日本から海を越え世界中の人の心を動かすことに成功した。
 本書は、その理由の本質に迫るため初音ミクのヒットを音楽史的視点から検証した一冊である。これまで初音ミクに関する議論は数あれども、不思議な程音楽史的観点からの議論は寡少であった。その議論は大概がインターネット論やオタク論に留まり、ヒットの本質を議論するにはいささか視野狭窄的だったと言わざるを得ない。
 この本を読み終え、改めて彼女の歌声を聴くとき私の脳裏には音楽シーンの流れの最先端をひた走る彼女の幻影が映しだされていた。その愉快な幻想に浸りながら、次に一体どんな新たな音楽が私を「みっくみくに」してくれるのか私は期待してやまない。

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エントリーNo.7

これぞ19世紀の「倍返し」だ!!

P.N ペン太郎さん
モンテ・クリスト伯(アレクサンドル・デュマ)
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 「復讐からは…何も生まれない」と知ったかぶる主人公が嫌いである。そんな貴方に朗報だ。
 かの『三銃士』を著したアレクサンドル・デュマの傑作『モンテ・クリスト伯』では、それこそこちらが小気味好く感じるまでにガッツリ復讐を遂げてくれる。婚礼を控えた主人公エドモン・ダンテスは、あれやこれやで無実の罪を着せられ、牢獄で苦渋の生活を14年もの間強いられる。考えてみてほしい。これから好きな女と一緒になって青春を謳歌する直前に豚箱に入れられ、そこから出た時にはもう良いオッサン。むごい。惨すぎる。しかしご安心あれ。ここから怒涛の復讐劇の幕開けだ。その筋の運びには都合の良すぎる感が否めないし、文学と称するにはややエンタメ要素が強すぎる(つまり、面白すぎる)かもしれない。しかしただの娯楽小説にはない、深い洞察力に溢れた心理描写もちゃんとあるので是非手に取ってほしい。閉塞したこの社会に生きる貴方の清涼剤となる、かもしれない。

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エントリーNo.8

私たちはいったい何者か

P.N サーモン大好きさん
何者(朝井リョウ)
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 私は自分のtwitterをいちから見直した。それは自分がなぜtwitterをやっているのかを疑問に思ったからだ。この小説はtwitterを中心にした大学生の話である。その作品にも登場する一般に意識高い系と呼ばれる人々がtwitter上で発信する過剰な自己情報を私は内心馬鹿にしていた。しかしそれは自分が何者であるかを見つけるための彼らなりの努力だったのではないだろうか。私も就職を見据え一人で人生を見つめなくてはならないとき、きっと自分が何者であるかを再確認せずにはいられなくなる。その中でたとえ他人に馬鹿にされてでも彼らは力強く何者かになろうとしたのではないだろうか。そう思ってから日々私は自分が何者であるかを考えざるを得なくなってしまった。この小説はそのような日々のくすんだ思いを痛感させるだけではなく、次の一歩を踏み出させる不思議な力がある。それは筆者からの自分が何者かわからなくなった人へのエールなのかもしれない。

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エントリーNo.9

How to write well?

P.N aiさん
大学生のためのリサーチリテラシー入門(山田剛史・林創)
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 どう書けばいいのだろう?
 課題が出る度に何となく書いたレポートを提出…という記憶はありませんか。
 もし心当たりがあれば、読んでソンはありません!
 どう読むか、どう書くか、どう考えるか。
 大学入学以降、高校までの勉強方法と何かが違うと少しでも感じているなら、この本にその解決となるヒントがあるかもしれません。大学院進学以降に読みましたが、これを学部時代に読んでいれば、また違った成績・研究だった…かもしれません。
 ここは少し違う気がするといったところも、自分なりに解釈・修正しながら読んでみるといいかもしれません。巷にはビジネスマン向けの自己啓発・学習指南書も多いですが、本書は大学生に特化しており、共感しやすいこともポイントです。
 本書の著者のひとりは、本学人間発達環境学研究科(発達科学部)の林創先生です。先生の開講されている授業も、本書同様とても面白くオススメします。

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エントリーNo.10

民意って何だろう

P.N aiさん
多数決を疑う(坂井豊貴)
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 これまでの人生で何回の多数決をしてきたでしょうか。
 学級委員を決めるとき、サークルの仲間との旅行の行き先、選挙などなど… 一見すると多数決はとても合理的で、集団の意思を尊重している仕組みです。
 いままで疑ったこともないという方も多いのかもしれません。
 本書は、社会選択理論と呼ばれる経済学の一分野を平易な表現で説明しています。数学的証明も…という方には少々物足りないかもしれませんが、数学が苦手な方には丁度良い内容かと思います。本書を読めば全てがわかるということも、多数決の問題が解決するということもありません。しかし、多数派の意見が全て正しいのだろうか?という疑問のスタートラインとして、とてもオススメできる一冊です。

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エントリーNo.11

就活生の皆さん、こんにちは。今日はとても大きな買い物をしに来ました。予算は、3億円です。

P.N ふなっしーさん
鉄板の就活面接 上場企業採用責任者、TV局アナウンサー経験者がおくる面接対策スキーム(岡田 直己)
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 就活生の皆さん、こんにちは。私、「会社」です。今日はとっても大切なお買い物をしに来ました。どうぞよろしくお願いします。
 まずは、貴方が私たちの会社に必要な商品かどうかを知りたいです。例えば、私たちのしたいことと貴方のしたいことが同じかどうかとか、私たちの環境で貴方の能力をフルに引き出すことができるかどうかとか。そうそう、安い買い物ではないので、どうせならラッピングもきっちりしてあるとなおよろしいです。それから……え? 条件が厳しすぎるって? いやはやすみません。何せ私たちにとってとても大きな買い物なんです。慎重になるのはご容赦いただきたい。いろいろ厳しい条件を言うと思いますが、是非、私たちに貴方自身を3億円で売り込んで「これは買いだ!」と思わせてみてください。
 互いによい商談が成立することを期待しています。では、商談をはじめましょうか。

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エントリーNo.12

ときには「はだか」になって

P.N ponllさん
はだか(谷川俊太郎)
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 生きるって,しんどい。
よくわからない人間関係,あの子はなんで怒っているの?
彼はどうしてふりむいてくれない?
それでも,無表情で笑顔のスタンプを送る。
やり場のない焦燥に,やりたいこともわからなくて,どうやって努力をすればいいのかわからなくて,そのくせ,自分の夢を話す人たちがうらやましいと思う。
圧し掛かる重圧,今日もうまくいかなった,昨日も明日もうまくいかないのは自分だけ,どうして,みんなみたいにうまくいかないんだろう。
日々はそんなエトセトラエトセトラの積みかさねで,生きるって,重たい服をかさねるように,ときどきしんどい。
そんなときは,心も「はだか」になって,リセットしたい。
そんなあなたに,読んでほしい詩集。
ひらがなだけの詩,読みにくいかもしれない。
ひらがなだけの詩,読みなれてきたら,きっとあなたの心も「はだか」になっている。