医学分館のステンドグラス

“三枚のステンドグラスへの思い”

岡田安弘

医学分館のステンドグラス

私は生理学講座教授としてこの18年間にわたって神戸大学医学部の学生のみなさんに生理学の講義をしてきた。生理学は文字通り生命の理(ことわり)を追求する学問であるが、学生のみなさんには、生命の物質的なそして機械的なからくりについて詳しく説明するとともに、生命のなりたつ不思議さと大切さについて理解してくださるよう心がけた。
このたび退官するにあたって私が生理学で講義してきた内容を三枚のステンドグラスにしたためて図書館に寄贈させていただくこととした。そのステンドグラスの題は「生命といのち」とさせていただいた。
 ここで学ぶ学生の皆さんが将来良き医師、研究者になられた時、私のデザインしたこのステンドグラスを見て私の講義の内容を思い出し、「生命といのち」の意味について理解して下さることだろう。

「生命といのち」について
 一番左の、赤と青の曲線からなる図案は、物質としての生命の担い手であるDNAの二重ラセン構造を示しており、その下にラテン語でsubstantia(実体)と書かせていただいた。一番右の円、 球と線からなる図案 は脳における神経回路網をはじめとして、内分泌系のフィードバック、器官、そして細胞一組織間、さらに細胞内情報伝達のコミュニケーションが調和のとれたホメオスタシス(homeostasis)すなわち’系’を形成していることを意味している。そしてその下にattributum(属性)と書かせていただいた。真中には 紅い椿の花 を描かせていただいた。紅い花には紅い花の遺伝子が、花びらの形の違いには異なった花びらの遺伝子が関係しているだろう。そしてそれらの物質と物質のつながりが系をつくり生命を形成しているといえるだろう。
 しかし生命を構成する物質を全てよせ集めて系をつくらせたら紅い花、紅い生命といのちができるのだろうか。紅い花の生命といのちは紅い花の中にあり、花全体の中にある。このことに気がつく時、みなさんは良き医師、そして思慮ある生命科学者になるだろう。

(神戸大学名誉教授)