Anon. Misselden, Edward著?, 1622.
本書は17世紀初頭におけるイギリスの貿易衰退の主な原因が貨幣の欠乏に基づくことを論証し、いかにして貨幣を充実させ貿易を繁栄させるかの救済策を提示している。著者はその1つとして 「貿易統制の必要性」並びに「独占の排除」を主張しているのだが、ここで問題となるのは当時の自由貿易の概念である。近代的意味における「貿易の自由」は17世紀においては、ほとんど問題にされなかったのである。なんらかの統制は必要であり、そのため会社組織が選ばれるべきことは一般に認められていた。前述した「自由貿易法案」も目的は貿易の自由競争に対する制約を外すためではなく、会社に参加を希望する個人に会社を開放するためのものであった。個人の参加を阻む「会社の独占」に人々の非難が集まったのである。このように「独占の排除」こそが近世初期における自由貿易論の本質であった。ミス・セルデンの本書は自由貿易概念の発展を知る上において重要な意義を持っている。しかし、同年マリーネスの著 “The maintenance of free trade according to…” によって本書は反論されることになる。
(社会科学系図書館(1-10-334) 昭和3年4月19日受入)
参考文献 : 南 諭造 「古版経済書管見」(神戸商大新聞 昭和10年3月20日号)