第3回 書評部門 応募作品リスト

各エントリーの枠内をクリックすると、それぞれの書評作品が表示されます。
公平を期すため、表示の順番はランダムにしています。
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エントリーNo.1

日本人のための日本再ハッケン本

P.N 抹茶ラテさん
テーマ:異文化
クール・ジャパン!? : 外国人が見たニッポン(鴻上尚史)
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 あなたは海外に行ったことがあるだろうか。海外へ行くと日本では気づかない様々なことが見えてくる。日本の治安の良さ、清潔さ、独特な風習と文化。一方日本人のまごたらしさ、過剰な気遣いなど外国人には受け入れがたい日本の風習もあるようだ。残念ながら我々が普段見聞きしている日本のイメージは、日本人が伝える日本人のために作られたイメージに過ぎない。しかし、この本はそのような、我々が普段受けている日本のイメージを覆してくれる本だ。実際、外国人が日本に来て生活をする中で感じたことを、作者が見聞きし、率直な意見として書かれてあるため、生易しい評価だけではない。我々が良かれと思っていたこと、風習に対する厳しい意見も時にはある。しかし、そのような本だからこそ今の平和ボケしている日本人にとっては最適の本と言えるのではないだろうか。実際のところ、日本は世界かどう見られているのだろうか。井の中の蛙状態から我々日本人を啓蒙してくれる一冊だ。新しい日本の姿を見ることで、客観的な視点や考え方が身につくと思う。

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エントリーNo.2

海という野生

P.N とにかく読んで。さん
テーマ:海
野生の思考(クロード・レヴィ=ストロース [著] ; 大橋保夫訳)
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 海といえば船だ、船といったらクイーンエリザベス号だ、ぼくは神戸の港で目の前にエリザベスを見てその巨大さに一歩後じさった、しかしそれでも全貌は捉えられなかった、だからほとんどそれは宗教であり芸術の感覚だった。とぼくにいったのはぼくの恩師である中沢さんである。
大きな海を航海する船を設計し造るのはエンジニアだ。エンジニアは設計に際して、CADなどを使って必ず模型を作る。なぜなら、設計の対象を「自分」の視野の中に収めて、俯瞰したいから。「視覚化」しなければならないから。俯瞰は人を安心させる。人はすぐ安心したがる。「視覚」からの情報は構造的に人間の思考の多くを占めるという。俯瞰は、対象のすべてを、把握した気分に、錯覚させる。
けれど、人が対象のすべてを網羅的に把握できるなんてことは絶対にない。人は全知全能でない、は絶対だ。よくよくシンプルに考えればすぐわかることである。しかし多くのエンジニアがそういう錯覚に陥りがちなのは、模型を作るという「縮減」の行為が、海に似た無限に近いひろがりを持つ人間の心にとって、本質的に激しく快感であるから。というのは文化人類学者のレヴィ=ストロースである。
 レヴィ=ストロースはいまから約50年も前に、現代の抱えるだろう問題を予見して、だいたいこう言っている。
「科学的思考が人間の思考のすべてを支配し、ピークに到達した文明社会には、『野生の思考』が大きく欠落しているだろう。『野生の思考』とは、すべての人間に生まれながらにして根源的にセットされた、「宗教」「芸術」の感覚である。科学的思考と『野生の思考』のバランスを、ある均衡点に調整することが、現代の抱える多くの深刻な問題を乗り越える、ほとんど唯一の道である」

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エントリーNo.3

お菓子が好きなの?じゃあ、数学に向いてるね。

テーマ:お菓子
おいしい数学 : 証明の味はパイの味(ジム・ヘンリー [著] ; 水原文訳)
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 「君はどこの学部?」と訊かれると、いつも僕は困ってしまう。出席していないからではない。答えた後の相手のリアクションが想像できるからだ。「数学科だよ。」その言葉は相手を黙らせる魔法だ。
 いわゆる理系にあって、数学はふしぎな扱いをされている。あるときは科学の女王と呼ばれ、またあるときには哲学っぽいと評される。「『探偵ガリレオ』みたいに黒板いっぱいに数式を書けるんだ」と言われたことも少なくない。(湯川先生の専門は物理学なのだが)
 「おいしい数学」は、そんな数学へのイメージを壊すだろう。お菓子作りと数学が似ているというのだから!
 突飛なアイデア?ーそれなら目次を開いて、目に留まった章を読んでみよう。この本に散りばめられたたくさんのレシピとクイズが、あなたをわくわくさせてくれる。とりあえずやってみることが料理と数学を楽しむコツだから。
 お菓子は好きだけど、数学はちょっと…というあなたにこそ読んでほしい一冊。
 冷めないうちに一口どうぞ。

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エントリーNo.4

クジラのサプライズ

P.N れんげさん
テーマ:海
クジラの彼(有川浩)
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 この「クジラ」の意味、私は分かりませんでした。こんな呼び名があるなんて全然知らなかったんです。「潜る」もの。「沈む」じゃない。だから「クジラ」。そう言われると、納得しました。私は、「沈む」って言ってたので、クジラの彼に怒られるかもしれませんね笑
 この本は、「クジラ」に乗っている彼と、その彼をじっと待ち続ける彼女を始めとするいくつかのラブストーリー短編集です!そして、この本にしかけられたちょっとしたサプライズで、私は大興奮でした…!
 私はこの作品を先に読んで、あとから有川浩さんの他の作品を読んだのですが、他の作品を読み終えるたびにもう一度「クジラの彼」を読みたくなって、もう何度も読みました。これは読んでもらわないと分からないので言えないんですが、「あれってこのことだったんだ!」とか「あのシーンの裏にはこんなことがあったの?」とかいうことがたくさんあって、もう楽しくって!!私はこれを中学の時に初めて読んだのですが、胸キュンがいっぱい詰まっていて今でもドキドキしながら読んでいます。最近恋愛要素足りてないなーっていうときはこの本でドキドキを補給します笑 でもドキドキがMAXの時も読みます。…なんか、結局いつでも読んでます笑でもそのくらい大好きな作品です。

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エントリーNo.5

「神は偉大なり」がもつ本当の意味と女性の社会進出

P.N ゆっち🍎さん
テーマ:異文化
知っておきたいイスラムのすべて(ライフサイエンス)
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 「イスラム教徒がいるからテロは起きる、もうイスラム教徒の入国は禁止だ!」などと言った世にも不思議な大統領が居た。そんな彼に是非読んで欲しい本である。しかし、彼のみならず実は私たちも未だイスラム教徒について知らないことばかりだ。この本はそんな知られざる道へと誘ってくれる素敵な本である。私からは三つほど、この本の魅力を二点ほどと私が一番好きな章について熱弁したい。
 まず一つ目はこの本の持つ形式だ。小項目ごとにわかれており、自分の興味のある点を先に読んだり、疑問を解決するための辞書的な読み方もできる。このように、読み手によってその姿を変幻自在に変え得るのもこの本の魅力と言えるだろう。例えば「イスラム教は好戦的で暴力的な宗教か?」や「サッカーと格闘技が人気のスポーツ文化」などの小見出しには興味をそそられる。
 二つ目は、この本の立つ位置だ。現在イスラム教の置かれた微妙な場所を理解した上でイスラム教に対する偏見をなくすと言う明確な目的のもと、この本は書かれている。そうでありながら、極端にイスラム主義に偏ることも半イスラム主義になることもなくあくまで中立に書かれているその姿勢が私にある種の潔さを感じさせる。これが例えば、”イスラム教は人を傷つけない、などという看板を掲げて書いていたら、これ幸いと本を投げ出す読者も多く出ていたことだろう。イスラム教にも問題点があるということを指摘しつつも、イスラム教について如何に正確に読者に伝えるか。正しい情報を踏まえた上で最終的に判断するのは読者に任せる、その潔さが、付かず離れずな距離感が魅力的と私には映る。
 私が一番好きなのは、文化と生活の章だ。日本と全く異なるイスラム文化は想像するのがとても楽しい。そして、想像すらできないくらいのめくるめく美しい世界が現地には広がっているのだと思うと是非行って見たいものだ。
 この本の魅力を十分伝えられた自信はないが、誰かがこの本を手に取り少しの間世界に思いを馳せてくれたら、と願う。

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エントリーNo.6

「走る=run」は正しいか?

P.N K.Eさん
テーマ:異文化
ことばと思考(今井むつみ)
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 あなたが大学生なら、今までの人生で少なくとも3つの言語に触れていることだろう。日本語と英語、そして第二外国語。入学時、あなたはどの外国語を選択しただろうか。
英語を、あるいは第二外国語を学ぶ過程で、私はさまざまな壁にぶちあたった。
「冠詞って何?どう使い分けるの?」
「男性名詞?女性名詞?名詞に性別があるのはなぜ?」
「動詞の活用、もううんざり!」
「この場合は過去形じゃなくて現在完了形を使うべきかな?」
「え、この動詞ってうまく日本語に訳せなくない?そもそも日本語にこの概念ないよね?」
外国語と日本語は、発音も文法も語彙も全く異なっている。そんな事実を目の当たりにして、ふと、使う言語が違うなら、思考回路も違うんじゃないか?という考えが頭をよぎった。それで手に取ったのがこの本だ。
著者は最新の研究成果を、初学者でもわかりやすいように丁寧に解説してくれている。この本でも明かされている通り、異文化に暮らす人々の考え方は、やはり多かれ少なかれそこの言語の影響を受けている。言語について学ぶことは、異文化理解の一助になること間違いなしだ。
最後に、この本の内容からひとつ。「彼女は走っています」を英訳すると、どうなるだろうか?
「そんなの””She is running.””だろ、当たり前だよ」と思ったあなた。ぜひこの本を読んでみてください。

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エントリーNo.7

ヴェニスに死すを読んで

P.N りさぼさん
テーマ:海
ヴェニスに死す(トオマス・マン作 ; 実吉捷郎訳)
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 これまでの人生で、生死構わず、美しいものを追い求めたという経験があるだろうか。
主人公のアッシェンバッハは、羽目を外すこともなく、実直に生きてきた。しかし突然彼は旅行欲に駆られ、水の都ヴェニスへ。そこで彼は、神に近い美しさを有した少年タッジウに出会う。
「いいなあーとアッシェンバッハは、芸術家が時々、一つの傑作に面して、その狂喜、その恍惚を表す、あのくろうとらしく冷静な是認の気持ちで、そう思った。そしてさらにこう考えた。-まったくだ。海や渚が私を待っていないにしても、お前がいる限り、わたしはここを去らない。」タッジウの目を惹こうと、彼は忌み嫌っていた化粧をして、まるで若者のように心をときめかせるアッシェンバッハ。コレラが蔓延し始め、旅行客がいなくなる中、タッジウという芸術品を眺めるためにヴェニスに留まる。そしてついにコレラに罹った彼は、海で波と戯れるタッジウを眺めながら息絶える。
 芸術に出会うということは恋に等しいのではないか。しかし、恋とは、自分を生かせるものであるとともに、堕落させ、死へと向かわせるものでもあるという矛盾。
理性をかなぐり捨てて美を追い求める様は、まるで絵仏師良秀だ。周りからみれば奇異な行動だが、美を追い求めて行動している者からみれば筋が通っている。
 昨今はインターネットが普及し、「インスタ映え」という言葉を聞かない日はない。自分が美しいと思った物を他者と共有することで自分をアピールする、裏を返せば他人が美しいと思ったものを自分も美しいと思わなければならない。つまり美の共有を強要している。
 アッシェンバッハは違う。彼は、美しいと思った物を自分の中で追い求め、完結させ、満足している。
 手に入らないものを追い求める彼に物悲しさを感じるとともに、無我夢中で自分の美しいと思うもののみ追い求める姿に、神のような崇高さを感じる。

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エントリーNo.8

21世紀におけるキャラメルの懐かしさについて

P.N ヘガティーさん
テーマ:お菓子
風味絶佳(山田詠美)
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 森永ミルクキャラメルの黄色いパッケージは、なぜだか今もレトロなデザインである。調べると、あのデザインは大正時代から変わっていないらしい。そこには、「西洋に追いつけ、追い越せ」をテーマに発展を遂げていた、戦後以降の時代感が漂っているように思う。
 また、「キャラメルが好き」と公言するのもなぜだか少し恥ずかしい。あの味が素朴すぎるからかもしれないけれど、周囲に子どもっぽい印象を与えてしまう。「インスタ映え」の時代を生きる私たちには、四角いキャラメルよりもスタバのキャラメルフラペチーノのほうが似合っている。
 この本は6作の恋愛小説が収められた短編集であるが、表題作の『風味絶佳』のメインテーマは「キャラメル」である。主人公の志郎は、イマドキの若者には珍しく常にキャラメルを持ち歩いている。それには理由がある。祖母である不二子の好物がキャラメルであり、志郎にもその嗜好が伝染したのだ。不二子はその昔、米軍基地のクラブでウェイトレスとして働いていた。そこで知り合ったアメリカ人の男性と熱烈な恋に落ちるが、結局相手に逃げられてしまうという「甘くて苦い」経験をしている。
 彼女にはキャラメルを語るだけの資格があるように思える。戦後の記憶も、アメリカに対する特別な感情も、「甘くて苦い」恋愛の経験も、すべて持ち合わせている。だけど志郎にそんなものはない。私たちだって同じような存在かもしれない。だけれども、なぜかキャラメルの味に懐かしさを感じてしまう。たとえ、他人のエピソードを適当にリミックスして、偽りのノスタルジーに浸っているだけなのだとわかっていても、その錯覚から抜け出せない。誰かの想い出が少しだけ入っているから、キャラメルの味は単純なようで複雑なのかもしれない。この作品は、四角いキャラメルを口に含んだ時の、なんとも表現しがたい独特な感情をありありと思い起こさせる。

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エントリーNo.9

ふたを開ければ、海の世界

P.N まっちゃさん
テーマ:海
海のふた(よしもとばなな)
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 この物語が持つ力は、海の力だと思う。
海といえば、まぶしい夏の思い出の象徴。でも時々それとは違った、穏やかで切ない表情も見せる。ひとしきりはしゃいだ後、ふとひとりで静かな波打ち際を歩き、遠く遠くまで広がる海を眺めながら、「ああ、どこまでも透明な心でいれたらなあ。」そんなセンチメンタルな思いにふけったことがある人もいるだろう。
そんな幻想的な夏の思い出だって、ごちゃごちゃした日常に戻ればすぐにどこか遠くへ押しやられてしまう。穏やかな波のような気持ちでいたくたって、それは無理というもの。だから私たちは、窮屈な毎日をひととき忘れられるような手段を必要とする。それは好きなスポーツであったり、音楽であったりする。けれど、いまいちその手段が見つけ出せていない人は、『海のふた』を開けてみるのはどうだろうか。
二人の女の子が海辺でかき氷店を営みながらひと夏を過ごすという、要約すればそれだけの小説である。でも読んでいるとふわっと心が海辺に旅するような不思議な感覚を味わえる。海の独特のにおいとか透明感とか、なぜか人をもの悲しくさせたり強い気持ちにしてくれたりするような、そういう海の持つエネルギーみたいなものがほとばしる物語なのだ。
もうすっかり冷え込む季節になったけれど、読書の世界は自由。この夏に素敵な思い出があった人もそうでない人も、少し時間を巻き戻して、この不思議な海辺のまちに旅してみてはいかがだろうか。