兵庫県大学図書館協議会講演会(2003.11.28)

情報公開法制と図書館

神戸学院大学 荏原明則

1 はじめに

 このたびは、「情報公開法制と図書館」というテーマでお話しをさせていただくこととなりました。今回は、「大学図書館の開放」という統一的テーマのもとで、特にソフトの問題−最近の情報公開法制の展開を機に図書館の公開や開放についての総合的なお話しをすべきなのでしょうが、私の能力のことから一、二の問題の提起をしようとするものです。

 ところで、公開を前提とした図書館について何故、情報公開法制が問題とされるのでしょうか。それほど図書館は閉鎖的なのでしょうか。また、情報公開法制と言いましたが、これはどのような意味を持つのでしょうか。今回はこういった問題について、簡単な紹介から始めましょう。

 情報公開法制について簡単に紹介した後、大学図書館への影響、問題にふれたいと考えます。

2 情報公開法制

 ここで言う情報公開法制とは、次のような法制度を考えています。すなわち、今回のコーディネーターからご提案のあった「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(平成11年法律42号、「情報公開法」と略称されています。ここでも以下、「情報公開法」といいます。)の他、「独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律」(平成13年法律140号)、個人情報の保護に関する三つの法律(1)「個人情報の保護に関する法律」(平成15年法律57号、以下「個人情報保護法」といいます。)、(2)「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」(平成15年法律58号、以下「行政機関法」といいます。)、(3)「独立法人等の保有する個人情報の保護に関する法律」(平成15年法律59号、以下「独立行政法人法」といいます。)や各地方公共団体の定める情報公開条例(名称は地方公共団体ごとに若干異なりますが、ほぼ全ての地方公共団体が制定しています)、個人情報保護条例(名称は地方公共団体ごとに若干異なりますが、統一的な条例を定めるところはまだ少数です。2005年4月までにはほぼ全ての地方公共団体で制定すると予想されます。)及び会議公開条例(各地方公共団体ごとに名称は異なり、国は今のところ、一般法としての会議公開法は未制定ですし、地方公共団体でも条例形式によるもの、規則によるものなど立法形式も様々です。)を含む法制度を考えます。

 「情報公開法」は、国民主権(および民主主義)に基づき、国民の情報公開請求権(または知る権利)を保障し、行政の説明責任を全うすることを目的とするものです。このため、行政機関はその保有する情報を、制限列挙された不開示情報は除いて、原則的に公開し、国民の請求に対し開示することが要求されます。この不開示事由には、個人情報(個人を識別しうる情報)、法人情報(及び営業情報)、国の安全に関する情報、行政事務執行情報等が法律に制限列挙されています。また、このシステムの実効性を担保するため、不服申立、訴訟提起も可能としています。不服申立や訴訟により、行政機関により一旦不開示とされたものが開示とされた例は多数ありますし、これにより行政機関が従来の取扱を変更して情報を公開、開示することもしばしば見られます。

 ところで、この「情報公開法」は、国の行政機関の保有する情報を対象とするものです。国立大学もここに言う行政機関とされてきましたし(行政機関の保有する情報の公開に関する法律施行令1条2項、なお、国立大学は2004年4月より独立行政法人となりますから、独立行政法人等の情報の公開に関する法律の適用が予定されています)、公立大学も県や市でも情報公開条例に言う実施機関の一機関として情報の公開をしてきました。しかし、私立大学に、これらの法律や条例の適用はありません。

 さて、情報公開制度の確立前からですが、確立後も、個人情報の保護が特に問題とされてきました。住民基本台帳情報の電子情報化の際にそれを請負った業者のアルバイトが市民全員の名簿をコピーしてそれを名簿屋に売却し問題となった例がありますが、これについて大阪高裁は一人あたり1万5千円の国家賠償請求を認容しました。この例では、氏名、住所、生年月日等の情報が流失していますが、裁判所はこのような情報についてもプライバシーの権利の侵害を認めていることに注目すべきでしょう。また、今日の高度情報社会、特にコンピュ?タが業務に一般的に使用され大量の情報が一瞬に処理できるため、プライバシーの権利侵害の可能性は極めて高くなっています。

 個人情報保護に関する3法律は、今年の5月に制定、公布され、既に一部は施行されていますが、義務等に関する重要部分の施行は2005年4月の予定です。これらの法律は上記のような社会の変化を踏まえたものですが、「個人情報保護法」は、三つの法律に共通する基本法の部分と民間の個人情報取扱業者に対する規制等を含み、「行政機関法」は国の行政機関が保有する個人情報について、国民の(自己)情報へのアクセス権と行政機関の個人情報の管理システムに関して規定し、「独立行政法人法」は独立行政法人が保有する個人情報について、同様の制度を採用しています。

 この個人情報保護システムでもっとも注目すべき点は、従来、個人情報保護とは「『個人情報』を『秘密』として、誰にも見せない」ことだと考えてきたことを改め、「『個人情報』を『本人には開示』し、『第三者には不開示』とし、個人情報保有者に適切な管理を要求する」システムとしたことです。そしてこのシステムの実効性を担保するため、紛争解決手段の提供、行政機関が保有する場合には不服申立や訴訟等を可能としています。

 個人情報保護システムは、独立法人等法により独立行政法人化した国立大学、地方公共団体の条例により公立大学が規制されることはもちろんですが、情報公開の場合と異なり、「個人情報保護法」が民間の個人情報取扱事業者も規制の対象としていますから、私立大学も対象となる可能性があります。私立大学の場合は、保有する個人情報の全部又は一部が、「学術研究の用に供する目的」で保有する場合には、個人情報の保護に関する法律の義務規定等が適用除外となります(同法50条1項2号)。この条項の解釈には、学術研究以外の目的で収集・保有する個人情報については私立大学も法律の適用があるから、それに関しては法律の要求する適正な管理のためのシステムを整備することが要求されるとする見解と、学問の自由を保護する見地から義務は免除されるため、自主的なシステム構築が要求されるにすぎないとする見解とがあり得ます。いずれにせよ、先に述べたように、不適切な管理によって名簿情報が流失した場合に損害賠償責任が追求される可能性があることを考慮すれば、個人情報を含む適切な情報管理システムを自主的に構築すべきでしょう。

3 大学図書館と情報公開法制

 以上のように、情報公開法制では、この協議会の会員である大学図書館すべてに直接的な義務を課すものは多くありません。

 ただ、このような法制度の確立には、大学図書館も無縁ではいられないでしょう。情報公開法等が直接適用される大学では、図書館を構成員である教職員や学生以外の住民や国民一般に公開することや、保有する情報(内部情報を含め)は開示請求の対象となり得ます。

 大学図書館を地域に開かれた施設とするという動きからすれば、私学でも、法的問題としてではなくとも、ほぼ同一の問題が生起すると考えられます。一般への公開の準備としては、まず、所蔵資料に関しては、従来、学内公開として外部に公開しなかったものについての整理(例えば、稀覯本、学生等の作成した卒論、教員が収集した資料類《場合によっては、行政機関では非開示としている情報を図書館が管理し、講義に使用している例があると言われる》)が問題となります。学生の著作等は著作権法上問題となることがありそうです。もっとも、「情報公開法」では、著作権法の改正により情報公開制度を優先する旨の取扱を予定しています。著作権法では一般に著作者の同意無しに著作物を公開することはできませんが、通常は学位の取得等に際し、公開を同意しているものと考えられます。この場合にも手続的整備が要請されます。また、著作物によっては、一定の保護を受けるべきものがあり、これについては基準の事前の策定、明示が要求されます。

 また、地域住民の利用に際して、利用登録制の採用、その際にいかなる情報を取得・保有するか、等の検討が必要です。この点は、公共施設の利用関係を参考にすることが許されると考えられます。

 また、個人情報としては利用登録時の情報の他、図書利用記録(閲覧・貸出記録、これは個人情報であって、しかも個人の思想信条が含まれるいわゆるセンシティブ情報であるから不適切な管理によって、特にプライバシーの権利の侵害の可能性が高い)等が問題となります。 

 私の乏しい個人的経験からしても、今回検討した問題については、教師と医師がトラブルを起こす例が多いようです。これは、日頃多くの情報がないと適切な医療活動、教育活動ができないため、情報の存在になれ、情報の適切な収集管理について関心が薄く、また、患者や学生の情報の本人開示についても経験が少ないことが多いからと推測されます。このような点が、残念ながら大学でもうかがえます。

 最後に、今回のテーマは従来研究が十分ではなかったものであり、私の見解もほとんど独断の域をでません。しかし、情報の公開、個人情報保護ともにわれわれにとっては重要な課題です。特に情報の本人開示と第三者への不開示原則等の遵守はしっかりとしたシステムを整備しないと難しい問題であると考えます。


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